家の寒さと健康の話では、ヒートショックがよく取り上げられます。でも、寒さに触れるのは入浴のときだけではありません。朝、布団から出るとき。暖かい居間から廊下へ出るとき。家の中でも、私たちは温度の違いを感じながら暮らしています。
私は50代で、高血圧があります。子どものころからアレルギー性鼻炎もあり、住まいの暖かさを自分の体と切り離して考えられません。住宅業界で30年以上、家に関わってきましたが、今は暮らす側としても気になっているんです。
住まいと健康の研究で知られる近畿大学の岩前篤教授は、新築の家に引っ越した人に、転居前後の体調の変化を尋ねる大規模な調査を行いました。その結果は、断熱性能の高い家に移った人ほど、症状が改善した割合が高いというものです。断熱性能は、健康と関わっている。この記事では、その根拠となる研究データと私自身の体験から、断熱と健康寿命の関係を考えます。
この記事でわかること
- 入浴時だけでなく、毎日の室温を気にかけたい理由
- 近畿大学・岩前教授の調査が示す、断熱性能と症状改善の関係
- 室温と血圧について、国の調査で示されたこと
- 私自身が経験した、住まいと鼻炎の変化
- 健康寿命や老後の暮らしを考えるうえで、断熱をどう捉えるか
1. 入浴時だけではない、家の中の寒さ

ヒートショックは、急な寒暖差によって血圧が大きく変動し、体に負担がかかることです。暖かい部屋から寒い脱衣所へ移り、熱い湯船に入る場面を思い浮かべると、わかりやすいですね。
入浴時の温度差には注意したいものです。ただ、寝室や廊下、トイレを行き来するときにも、温度の違う場所を通ります。高血圧のある私には、その毎日も他人事ではありません。
暖房のきいた居間だけでなく、家の中の温度差を見る。住まいと健康の関係を考えるなら、まずそこからだと思います。では、断熱と健康について、研究では何が示されているのでしょうか。
2. 断熱性能と健康の関係を示す研究データ

まず紹介したいのが、近畿大学の岩前篤教授の調査です。岩前教授は建築環境の研究者で、住まいの断熱と住む人の健康の関係を長く研究してきました。この調査では、新築の家に引っ越した人たちに、転居前に出ていた症状が転居後にどう変わったかを尋ね、引っ越し先の家の断熱性能ごとに比べています。
結果は、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など、多くの症状で同じ傾向でした。断熱性能が高い家に移った人ほど、症状が改善した割合が高いのです。
| 引っ越し先の断熱 | アレルギー性鼻炎 | 気管支喘息 | アトピー性皮膚炎 |
|---|---|---|---|
| 断熱等級3相当 | 約11% | 約56% | 約35% |
| 断熱等級4相当 | 約15% | 約62% | 約47% |
| 断熱等級5相当 | 約32% | 約76% | 約62% |
※転居前に症状があった人のうち、転居後に改善した人の割合
私が長く付き合ってきたアレルギー性鼻炎では、断熱等級5相当の家に移った人の改善率が、等級3相当の約3倍でした。この数字を見たとき、自分の体験と重なるものを感じました。
出典:岩前篤「住宅断熱性の健康改善効果に関する大規模アンケート調査」第43回熱シンポジウム(2013年10月)。数値は環境省 住宅脱炭素NAVIセミナー資料「断熱改修による健康優良性の向上効果」(近畿大学 藤田浩司)のグラフから読み取った概数です。
国の調査でも、住まいの温度と体の関係が見えてきています。国土交通省の「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査」の中間報告では、調査に参加した住宅と居住者について、室温や部屋間の温度差と血圧の関係が分析されています。室温が安定している家では血圧の季節差が小さい傾向があり、断熱改修の前後を比べた分析でも、改修後の起床時の最高血圧が低いという結果が報告されています。
朝の血圧という点は、高血圧のある私には特に印象に残りました。体の状態は人によって違いますが、暖かい家は体への負担を減らす方向に働く。調査はそれを示しています。
さらに、WHOの「住まいと健康に関するガイドライン」は、寒い季節の室温について、一般の人々を寒さによる健康への影響から守る目安として18℃を示しています。大学の研究、国の調査、そして国際機関。家の温度は健康に関わると、それぞれの立場から示されているんですね。
血圧と同じように、住まいとの関係をずっと考えてきたのが、私の鼻炎です。
3. 隙間風のある家で育った私と、今の家

子どものころ、私は隙間風がビュービュー入る文化住宅に住んでいました。そのころからアレルギー性鼻炎になり、長い間付き合ってきた症状です。
今は、高気密高断熱の戸建てに住んでいます。外との空気の出入りを抑え、室内の暖かさや涼しさを保ちやすくした家です。昔と比べると、私の鼻炎はかなりマシになりました。同じ家で暮らす子どもには、鼻炎が出ていません。
私一人の体験だけなら、たまたまかもしれません。子どもとの違いには、体質も関わるでしょう。でも、岩前教授の調査では、断熱性能の高い家に移った人ほどアレルギー性鼻炎が改善した割合が高くなっていました。私の実感は、研究データとも重なっているのです。
寒い日に窓や壁の一部がぬれる「結露」も、住まいと体調をつなぐ要素の一つです。湿気を含んだ空気が冷たい場所に触れて水滴になり、ぬれた状態が続けばカビなどが生じることもあります。断熱で室内の冷たい場所を減らし、換気で湿気を逃がす。この両方がそろって、体にやさしい室内環境になります。
毎日身を置く家の環境を、体調と無関係なものとして片づけない。それが、住宅に30年以上関わり、自分でも住まいの変化を体験してきた私の結論です。その思いは、これからの暮らし方にもつながっています。
4. 健康寿命を、自分の暮らしとして考える

「健康寿命」は、健康上の問題で日常生活を制限されずに過ごせる期間のことです。平均寿命とは違い、その間をどう暮らせるかに目を向けた言葉ですね。
自分の家で起き、食事をし、普段どおりに動ける。50代になった今、私はそんな毎日が続くことに大きな価値を感じます。
ここまで見てきたように、断熱性能の高い家ほど体の不調が改善した割合が高く、断熱改修の後には朝の血圧が低いという結果も報告されています。体の不調が減れば、日常生活を制限されずに過ごせる時間も守りやすくなる。断熱は、健康寿命を支える住まいの土台です。
元気に過ごせる時間を大切にしたい。それが、私にとって断熱を考えるいちばんの理由です。
その時間を考えると、住まいにかけるお金も老後の暮らしと切り離せません。
5. 年金と支出を考えるとき、住まいをどう見るか

50代の私にとって、年金は遠い将来の制度ではなく、これからの暮らしを支える収入です。医療費や光熱費も、生活から切り離せない支出になります。
体の不調が減れば、通院や薬にかかる負担も軽くなるかもしれません。ただ、医療費がいくら減るかは人それぞれで、計算できるものではありません。だからこそ、まず考えたいのは、費用をかけて、その家の暑さや寒さをどこまでやわらげられるかです。暖房を使っても足元が冷えるなら、原因を見ないまま大きな工事を決めるのはおすすめしません。
理想どおりに家じゅうを直せればよいとしても、予算には限りがあります。その家にとってのコストパフォーマンスを考え抜くことが大事なんですよね。では、家を大きく壊さずに何ができるのでしょうか。
6. 家を大きく壊さずに、できることを考える

ここでは、寒さや暑さに関わる場所を、窓、天井、床、そして見えない空気の通り道に分けて考えます。
家の壁は、部屋側の板の向こうにも空間があります。家によっては、その空間が床下や天井裏とつながり、空気が通り抜けます。断熱材が入っていても、その空気の動きが寒さに関わる場合があるんです。
この通り道を区切る工事が「気流止め」です。簡単に言うと、すき間のある箱にふたをして、空気が抜けていくのを抑えるようなものですね。窓には、今ある窓の室内側にもう一つ窓を付ける「内窓」という方法もあります。
たとえば足元が冷える家でも、床下の断熱材だけを見て終わりにはしません。床下から壁の中へ空気が通っていないか、窓からの冷えも関わっていないか。現場では、床下や天井裏などをできるだけ自分の目で確かめ、家全体のつながりを見ます。床や天井に断熱材を入れる工事も含め、どこから手を入れるかを考えるためです。
全面改修だけが選択肢ではありません。元気に暮らせる時間を守るために、まず毎日の寒さや暑さをどうやわらげるか。その家に合う方法を考えたいですね。
家を大きく壊さずにできる断熱改修については、こちらの記事でもご紹介しています。


